■ 鉄道車両音の生録について(諏訪 巧 編)

(1)取っかかり…当時は必死でした

 物心ついた頃から、車両の音には関心を持っていました。特に、ジョイント音は音楽で言うリズム楽器のようで、心地よい響きは、ことばでは言いあらわせない魅力を感じていました。

 SLブームのころ、蒸気機関車のサウンドレコードは各レコード会社から発売されていましたが、蒸気機関車以外となると、SLブーム後でもほとんど無く、「もしかしたら、これは自分で録音しておかないと二度と聞くことができなくなるのではないか」、という著しい危機感から始めたのが、本CDシリーズの音源です。

 もっとも、子供のころからの乗車スタイルである、「車両中央付近で進行方向を向いて右側の窓側に座って、窓を大きく開けて、窓枠に両ひじを組んでその上にあごを乗せ、顔を少し窓から出して進行方向を見ながら乗る」、という時に耳に飛び込んでくる列車音を、それに近いかたちで保存し再現したかった、そのことが発端にはなっていますが。

 当初、蒸気機関車の頃は、ラジカセでのモノラル録音でしたが、ラジカセには別売りの外部マイクをつないでいたものの、音質は悪く、またモノラル録音のうえに録音ボリュームもオートでしたから、とりあえず音が入っているという程度で、とても満足できる再生音ではありませんでした。それに、録音自体が写真撮影のおまけ、といった感じだったため、どうしても録音は二の次でした。

 そもそも、ラジカセ自体、テレビ漫画の「トムとジェリー」の本編を録音したいために、親に買ってもらったものでしたし、また、当時、学校のクラスではラジカセの所有が話題の中心になりかけていた時代でしたから、ラジカセ購入当初は、鉄道サウンド録音がメインではありませんでした。

 しかし、国鉄SL終焉後、かろうじて残っていた貝島炭鉱専用線の蒸気機関車も無くなり、さらにDF50などの撮影もひととおり落ちつくと、少しはましな状態(ラジカセのモノラル録音ではない録音)でサウンドを残しておこうと思い、機材を揃えて録音し始めたのが、本CDシリーズの音源です。

 それでも、蒸気機関車以外の車両、たとえばDF50やオハフ33などが、レコード会社からレコードが発売されていれば、自分で録音することはなかったのではないかと思います。

 とにもかくにも、録音の原点は、子供のころの、特に物事にこだわりを持ち始めた昭和40年代前半にあるように思います。

(2)機材について(録音機)

 録音は、写真以上に機材に左右されるのではないかと思います。

 当時は、高音質を求めるならオープンリールが主流でしたが、私にとっては価格や重量、機動性から、ソニーのカセットデンスケの購入が精一杯でした。

 カセットデンスケの型番はTC3000SDで、デンスケとしては後期のタイプで、この頃はすでに生録ブームは衰えていたように記憶しています。

 ただし、カセットタイプとは言え、単一乾電池4本を含めた重量はかなりの重さで、また、昨今の技術から見ればたいへんな電気大食い機なので、いつも本体装填分を含めて4セット、計16本以上は単一乾電池を携行していました。

 また、電池のへたりを考えて、連続録音時間は45分以内にとどめていましたから、乗車して長時間にわたる録音では、カセットテープ交換やヘッドクリーニングとともに、電池交換のタイミングに気をつかったものです。

 実際の収録では、録音機以外に、マイク2本、マイクアーム2本、マイクホルダー2個、粘着テープ、単一乾電池多数、綿棒と無水エタノール、必要分のカセットテープ、かさ(小雨の時の雨粒ノイズを防ぐため)、懐中電灯(夜間録音用)、ヘッドホン(緊急時使用)、それに、スリックのマスターデラックスという結構重い三脚等、総重量はかなりのもので、これらが要因かどうかは別にして、今では椎間板ヘルニアと座骨神経痛に悩まされています。

(3)機材について(録音機のトラブルと失敗)

 乾電池のへたりに関する失敗はいくつかしています。特に、20系特急「あさかぜ」(けん引機はED731012とEF301)を博多から下関まで録音したテープは、再生してがっかりしたのを今でも鮮明に憶えています。

 そんなこともあって、録音したテープを現地で再生したり、また録音中にヘッドホンでモニターしたり、VUメーターの照明を点灯することは極力ひかえていました。

 TC3000SDは、ヘッドのアース不良によるチリチリ音にも悩まされました。これに関しては、ソニーサービスに通ううちに、後になって原因が分かり対策をしてもらったのですが、そのうち修理担当の方となじみになり、ヘッドやピンチローラー、各ベルトなどの消耗部品、歯車等に塗布する潤滑グリースなどを分けてもらって、自分で定期的に交換するようになりました。また、ヘッドに関しては、ヘッドアジマスには特に神経を使いました。

 このセット特有だったのかもしれませんが、録音中に何かのはずみでオートシャットオフが突然働いて、気がついたら録音がストップしている、ということも時々ありました。この不具合に関しては何度調整してもらっても、完全に症状が治まることはありませんでした。

 この症状は、今回CD化したシリーズにいくつか混入していますが、残された音源が他にありませんので、この点はご了承願いたいと思います。

 特に、都城駅で停車中に、乗務員の方のご厚意で、おもいっきり空ぶかしした2543レDF50543は、その一尾始終がまったく録音されてなく、もう一度お願いすることは時間的には可能だったのですが、とても言い出せることではありませんでしたから、お礼を言いながらも、悲しい気持ちでいっぱいでした。

(4)機材について(マイク)

 マイクは、音を決定づける大きな要素だと思います。

 購入に際しては、ソニーのECM-23を考えていましたが、価格的に数千円安いECM-290Fという機種がラインアップに加わり、それにしてしまいました。

 数千円と言っても、マイクは2本必要ですから、結局一万円近くの差になるわけで、当時の貨幣価値と私の身分からは仕方のないことでした。

 ただ、当時、ソニーは、さかんにエレクトレットコンデンサマイクをバックエレクトレット化していて、私の記憶違いかも知れませんが、ECM-23は、その当時、まだバックエレクトレットではなかったように思います。

 他方、新製品のECM-290Fはバックエレクトレットで、ケーブルコネクタもECM-23同様のキャノンタイプでしたから、価格と共に、この点からもECM-290Fに落ちついた記憶があります。

 ただ、これはECM-23Fでも同様でしたが、同一銘柄であっても、マイクの特性は1本毎に微妙に違っていて、音質の近い2本を絞り込むのに、行きつけのオーディオ専門店から数本を用立てしていただきました。テスト後に2本に絞り込んだのですが、それでも左右のマイクの音質は結構違って録音されています。

 ECM-290Fは、良くも悪くも昭和57年にECM-23Fに買い替えるまで、ずっとお世話になりましたが、ECM-23Fに買い替えたころには魅力のある車両はごく僅かになっていましたから、ECM-23Fの活躍の場はあまりありませんでした。

(5)機材について(マイクの風防とマイクトラブル)

 ECM-290F、ECM-23Fともに同じことが言えましたが、付属の風防は全く役に立ちませんでした(人間にとって心地良い、少しの空気の流れでもゴロゴロ音を拾ってしまう)ので、自作しました。

 厚紙を使って骨組みを作り、それにウレタンを巻いて接着剤で仕上げたのですが、コンデンサ型なので空気の流れだけでもなんとか軽減できれば良し、としました。ダイナミック型も、前述の行きつけのオーディオ専門店からお借りして比較してみたのですが、風雑音には確かに強いものの、音質面では残念ながら魅力を感じませんでした。それで、あえて風雑音に難のある扱いにくいコンデンサ型を選びました。

 それでも、ウレタンの厚みを増やしていけば、それなりに風防効果も上がりましたが、当然のこと、今度は音質が悪くなっていきますので、その辺の接点(妥協点)を見つけるために、数種類の厚みの風防を作成して風に当ててみたり、スピーカーから再生した音楽を録音してみたり、近くの線路まで行き実際に録音してみたりして、試行錯誤して風防を作ったものです。

 いずれにしても、コンデンサ型は、本来は屋内のスタジオ等で使用すべきものですから、風は天敵で、なるほど無理な使い方ではあったと思います。

 かくして、コンデンサ型とつき合うことになったものの、TC3000SDをリミッターONで録音している関係から、風による大入力が瞬間的に入ってくると、録音がとぎれた状態になってしまい、それだけは、あきらめるしかありませんでした。

 もっとも、ローカットスイッチをONにすれば、風に係わる悩みからかなりのレベルで解放されるのですが、これは音質そのものを損ないますから、どんなにのどから手が出るくらい使いたくても、こらえました。

 ECM-290F、ECM-23Fともに、大きなトラブルは無かったのですが、右チャンネル用に使っていたECM-290Fは購入して間もなくオハフ33の床に頭から落としてしまい、元の高さ近くまでバウンドしてはね返ってくるという、可哀想なことをしてしまいました。それ以来、サーというヒスノイズのような音が、多少ですが、出るようになりました。

 また、これが原因でパンタグラフのスパークなどから出るノイズも、拾いやすくなってしまいましたが、ECM-23Fに買い替えたのは、そんな理由からでもあります。

(6)バズノイズ

 列車に乗車しての録音で、最も残念な結果になるのが、バズノイズを拾うトラブルでした。これはヘッドホンでのモニターではなかなか気がつかず、このあたりが、2ヘッド機であるTC3000SDの宿命だったような気がします。

 このノイズは、特定の車両でのみ発生しますから、事前にテスト録音すれば判別できるのですが、遠方へ出かけてぶっつけ本番の時は不可能でした。

 このノイズは、停車時は発生しませんが、速度が上がっていくと発生しますので、発電機に関係しているのかもしれません。直接録音機に飛び込んでくるタイプのノイズのようで、テープを再生すると、このバズノイズはセンターから再生されます。

 このノイズに遭う遭わないは、予め調べていない車両を録音する時は、運を天に任せるしかないのですが、紀勢本線で125レを亀山から新宮まで、オハフ33110を録音したときには、見事にやられました。事前に、オハフ33110を仮録音して、この種のノイズが発生していないかを確かめておけば良かったのですが、それは日程的に不可能でした。

 これとは別に、車内の蛍光灯から同じようなノイズが飛び込むことがありました。こちらは、インバーターに関連しているのでしょうか。私はこのあたりには詳しくないのですが、この種のノイズはお手上げでした。

(7)共振音(ビビリ音)、きしみ音、フラッター

 乗車して録音する場合、小規模なビビリ音やきしみ音は、手の届く範囲で、出どころがわかれば、完全ではないものの抑えることはできました。

 これらの音(録音する立場から見れば一種の雑音)は、実際に車両に乗っている時には、そんなに不快な音には感じませんが、いざ録音結果を再生してみると、この手の音はたいへん耳障りに、それも誇張されたかのように録音されてしまいます。

 列車に乗車しての録音では、予め走行中に確認して、車両の壁やその他、様々な箇所から発生するビビリ音やきしみ音を、折った紙を挟み込んだり、粘着テープなどで止めていくのですが、最初から、発生の少ない車両を探すのが一番良いのは言うまでもありません。

 ただ、ガラスのきしみ音や、壁の内部から発生するビビリ音、天井など手の届かない場所から発生する場合は、あきらめるしかなく、やはり一番良いのはそのような車両は避けることでした。

 まれに、激しくフラッターを発生させている車両がありましたが、幸か不幸か、乗車しての録音時にそのような車両に遭遇することはありませんでした。

 ただ、次の(8)で説明する、マイクポジション「録音方法B」で録音する場合は、体の自由がききませんから、車両中央で録音している時は、客室両端の扉が開いていても閉めることができず、連結部分から発生する雑音が容赦なく客室内に進入して、にぎやかな録音結果になってしまうことがありました。

 この雑音に関しては、駅で下車または乗車する乗客やトイレに行く乗客には、客室両端の扉を閉めてくれることを、常に願いながらの録音でした。

(8)マイクポジションと乗客への迷惑 … 平行音場録音「録音方法B」

 私の場合、子供のころからの乗車スタイルにおいて耳に飛び込んでくる音を保存再現したいために録音を始めましたから、客室内で、進行方向に向かって平行な音場で録音するのが、一番自然なのですが、このマイクポジションには困難が伴いました。

(1)の「取っかかり」のところで説明しました、子供のころからの乗車スタイルの目的は、「様々な音を偏らずに均等に聞きたい」、というところから来ていますので、次のような乗車スタイルは避けました。

 たとえば、車両の端の座席に座ると、その真下の台車からのジョイント音ばかりが大きく聞こえます。また、先頭車両や最後尾車に乗車すると、その前または後ろの車両はありませんから、本来聞こえてくるはずの隣の車両のジョイント音を耳にすることができません。

 オハフ33などの旧形客車では、ブレーキのかかり始めに聞くことのできるエアーのぬける音、「ツウ、ツウ、ツウ、ツーー」という音は、これも車両の中央付近に座らなければ聞くことはできません。

 急行気動車では、左右に均等にエンジン音を聞きたいので、1エンジンのキハ28には乗らず、必ずキハ58に乗っていました。この場合も、座席が空いている限り車両の中央付近に座りました。もっともキハ28に関しては、その後の冷房化改造で発電用エンジンが追加され、このエンジンが稼動すると他のほとんどの鉄道サウンドが、かき消されてしまいますので、とても乗車する気にはなれませんでした。

 進行方向を向いて右側の窓側に座るのは、おもに複線区間で対向列車を見るためで、単線区間でも、駅での交換はたいてい左側通行ですから、やはり右側に座っていなければ、対向列車を見たりその音を聞いたりできませんから、そんな理由からきています。

 このような、子供のころからの乗車スタイルでの音を再現するには、私のCDシリーズのジャケットの説明書きにあります、「録音方法B」で録音しなければならないのですが、この方法での録音は、たいへんやっかいでした。


図(録音方法)は [A] [B] [C] とも全て上から見たところ

 上図(録音方法B)が、そのマイクポジションなのですが、乗客のまっただ中での録音になりますから、乗客から発生する声や音は、当然ながらいっしょに収録されてしまいます。また、私が乗客にかける迷惑、たとえば、車両の外側から発生する音(ジョイント音、エンジン音、モーター音、ブレーキのエアー音、コンプレッサー音など)が、より多く窓を通してマイクに到達するように、同時に、客室内から発生するこもった音は、できるだけマイクが拾わないようにするため、窓は可能な限り大きめに開けますから、風の強い日は強風が車内を駆けめぐることになります。

 もっとも、風の強い日は、同時に、窓枠に当たる風切り音が車両から発生する音をかき消してしまい、また、マイクの位置をいつも以上に通路側に後退させても、マイクにも直接風が吹き付ける頻度が高くなるため、風雑音による過大入力リミッターが発生して、結局は満足な録音はできませんから、録音をあきらめるのが得策でした。

 いずれにしても、窓を開けると寒い時期や冷房車で夏期などは、周りの乗客に多大な迷惑をかけることになりますから、このマイクポジションはたいへん敷居の高い、なるべくならやりたくない録音方法でした。

 「録音方法B」には、まだ他にも迷惑事がありました。それは、4人掛けボックスを専有してしまうということでした。これは、左マイクが窓側左席、右マイクが窓側右席、録音機が通路側左席、マイクアームを持つ本人が通路側右席の空間を専有してしまうことから起こるもので、それにマイクケーブルなどが、ごちゃごちゃと絡みます。

 この録音方法は、録音時に車内ががら空き状態ならまだ良いのですが、それでもいつも気が引けていました。できれば避けたいと思っていました。

(9)それでもチャンスがあれば行った「録音方法B」

 それでも、チャンスがあれば「録音方法B」での録音は行いました。

 この方法は、他の録音方法以上に、収録される音質はマイクのセッティング次第で大きく変化しましたので、できるだけ、車両の外側から発生する音がマイクに入ってくるように気をつかいました。車内のこもった音は、音質をヌケの悪いつまらないものにしてしまいますから、これだけは、できる限り避けるようにしていました。

 ただ、車両の外側から発生する音を多く拾おうとして、マイクを窓に近づけると、トンネル進入時や対向列車とのすれ違い時などに、思わぬ風の一撃をくらってしまいますので、マイクの窓からの距離には気をつかいました。

 また、マイクを動かすことは音像定位を不安定にしますので、これも避けました。

 しかし、マイクアームを手持ちする以上、ハンドノイズは避けられませんでした。特に、旧形客車の駅停車時など、静まりかえったシーンでは目立ちました。また、長時間の連続録音では、手のだるさやしびれからくる腕力低下で、結構ハンドノイズを入れてしまっています。マイクアームにマイクホルダーを介して取り付けたマイク2本は、垂れ下がるケーブルと接続部分のコネクターの重量を含めて、長時間の手持ち録音には大きな負担でしたから、しかたの無かったことです。

 以上のようなことから、平行音場録音「録音方法B」は、他の乗客に多大な迷惑をかけること、本人の体力や自由を奪うこと(トイレに行けない、くしゃみやせきは我慢する、鼻はすすらない、呼吸は静かに行う、お腹は鳴らさない、体を無造作に動かしたり座席に座り直したりしない)などの問題がありますので、よほど条件が揃わない限り行いませんでした。

 しかし、この方法は物心ついた頃からの乗車スタイルである、「車両中央付近で進行方向を向いて右側の窓側に座って、窓を大きく開けて、窓枠に両ひじを組んでその上にあごを乗せ、顔を少し窓から出して進行方向を見ながら乗る」、時に得られるサウンドに、最も近い状態で再現できる録音方法でしたから、やはり今でも、当時避けていたことへの悔いは残ります。

(10)直角音場録音「録音方法A」

 この録音方法は、旧形客車をけん引する機関車音を録音する場合に限られますが、前記の「録音方法B」とちがって、非常にリスクの小さい録音方法でした。

 マイクは開放固定した客車のドアに、マイクアームとマイクホルダーを介して粘着テープで固定しますので(実際にはマイクへの振動を低減させるため、マイクアームと客車のドア間にビニールテープでぐるぐる巻きにした3cm厚程度の発泡スチロールをはさみました)、体の自由がききますから、録音中はVUメーターとピークレベルインジケーターの確認に専念できました。

 また、録音場所がデッキですから、暑さ寒さは自分が我慢すれば済むことなので、他の乗客への気兼ねも必要ありませんでした。

 ただし、リスクは小さいとは言っても、先頭客車のデッキにいるわけですから、衝突事故などに巻きこまれたらひとたまりもなく、録音時はいつも子供のころ遭遇した踏切事故が頭をよぎりました。

 この場合の録音方法では、再現される音はあくまでも旧形客車のデッキでの音なので、本来客室で聞くことのできる音とは異質のものでした。また、直角の音場なので、音の移動といった動きのある収録音を記録することはできませんでした。

 その上、左右のマイク間隔が車両の幅ほどひらいていますので、再生時に左右のスピーカーを車両の幅くらいに設置すれば、ちょうどデッキの貫通路部分に立っている感覚で再生音を聞けるのですが、ヘッドホンで聞くと車両の幅が一挙に人間の頭の幅まで縮小された感覚になってしまい、慣れるまでは違和感があるかもしれません。

 左右のマイク間隔が広い上に、単一指向性のマイクヘッドはお互いに反対方向を向いていますから、当初は音の中ぬけを心配しましたが、それは全く問題ありませんでした。

 マイクへの風対策については、デッキなので不利だと思われるかもしれませんが、上図のマイク設置個所は、ちょうど風が巻き込まない箇所なので、よほど横からの強風やトンネル進入時などを除いて、けっこう良好な状態で録音することができました。なお、マイクヘッドは前方からの風を受けないように、ドア端から約15cmくら内側にセットしています。

 それでも、デッキ部分の形状の違いから、オハフ45やスハフ42、あるいはオハフ61は風を巻き込みにくかったのですが、独特の形状を持つオハフ33は風が通りやすく、この点ではオハフ33はマイクへの風の影響面ではリスクがありました。

 一方、これとは別に、オハフ45やスハフ42、オハフ61などは車掌室側が機関車次位に連結された場合、車端に車掌室があるため、貫通路から進入してくる風は弱まり、風に対しての悪影響はさらに減少するのですが、実際の録音においては車掌室が機関車側にくることはあまり無かったように記憶しています。

 仮に、車端に車掌室があるデッキで録音した場合、貫通部分から飛び込んでくる連結器の音などが静かになりますから、収録される音はやや上品に聞こえました。

(11)平行音場録音「録音方法C」

 これは、通常一般的に行われる地上での録音方法です。

 音の再現は、地形や風向きなど以外にも、線路からの距離や高さで異なってきます。

 たとえば、DF50の発車音を録音する場合、線路脇で地上1mくらいの高さで録音するのと、跨線橋上などの高いところから録音するのとでは、収録される音はかなり違ってきます。

 地上1mくらいの高さでの録音では、エンジン音とモーター音が中心ですが、跨線橋上では排気音が中心に収録されます。

 「録音方法C」は、多くの場合、マイクアームを三脚にセットし、マイクケーブルを最大に伸ばして録音しましたが、がけや駅など、三脚使用が適当ではない場合は、手持ちで録音しています。

 手持ち録音は、ハンドノイズが発生しやすいのですが、機動性が必要な場合は、選択の余地はありませんでした。

(12)マイクポジション表記の重要性

 以上のように、私の鉄道サウンドCD編は、そのマイクポジションから(A)、(B)、(C)の三通りに分けられます。

 ただし、(C)に関しては、線路からの距離、高さ、直線か曲線か、アウトカーブかインカーブか、また、近くにトンネルがあるか、切り通しか、ひらけた場所か、それとも山間か、そして、季節や時間帯、天候、風向き等で、収録されるサウンドは変化しますから、本来ならもっと詳しい説明が必要かも知れません。

 しかし、どこにマイクがあって、そのマイクはどちらを向いているか、という程度の最低限の表記は、リスナーが鉄道サウンドを聞くときの、自分自身のポジションをイメージするためにも必要だと思います。

 特に、車両に乗車して録音したサウンドは、マイクポジションがリスナーに伝わっていないと、車両のどの部分に乗っているかなど、列車に乗って揺られている光景をリスナーはイメージできないですから、この表記は大切だと思います。

(13)カセットテープについて

 最初のころは、住友3M スコッチマスター70μsを使っていました。TDKのSAも数本使ってみたのですが、音楽録音に向いていたTDKのSAは、音質が柔らかくおとなしすぎて、鉄道車両の生録には良い結果が出ませんでした。

 住友3M スコッチマスター70μsは、これも生録以前から音楽録音に使っていましたが、硬質で高域が伸び、締まった低域の音質が、鉄道車両の生録には向いていたのかもしれません。以後、TDKのSA-Xに変更するまで使い続けましたが、テープ走行の点でやや不安のある銘柄でした。

 TDKのSA-Xは、SAと違って硬質で高域も伸び、ダイナミックな再生音を聞かせてくれました。
テープ走行の点でやや不安のあった住友3M スコッチマスター70μsに替えて以降、ナショナルの蒸着オングロームDUが発売されるまで使い続けました。

 ナショナルの蒸着オングロームDUは、高域の良く伸びる金属質でダイナミックな再生音を聞かせてくれたテープでした。TDKのSA-Xから替えた理由は、さらに良く伸びた高域の再現性にあったと記憶しています。

 マイクの風防を固めていたことから、テープ選びは、高域の再現性を重視していました。
低域に関しては、マイクのローカットスイッチを使っていませんでしたので、自然界の音をカセットテープに記録するという、カセットテープの性能から見て非常にきびしい条件から、締まりのあるタイトな低域再現をしてくれるテープが好ましかったように思います。

 いずれも、一貫してクロームポジション(CrO2)のテープを使いました。

 TC3000SD購入当初は、フェリクロームポジションのDUADに期待したのですが、クロームポジションのマスター70μsほどの音は聞かせてくれませんでしたので、使うことはありませんでした。

(14)CD化にあたって … 使用機材とソフト

カセットテープ再生 SONY / WM-D6C
A/D変換 TASCAM / CD-RW700
パーソナルコンピュータ Apple / eMac(Mac OS 10.3.9)●●
サウンド編集ソフト bias / Peak 4
オーディオCD抜き出し・書き込みソフト roxio / Toast 5

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